もぐらは穴を掘って太陽を探している。時に地上へたどり着くが、太陽を見たとたん目は光を失う
『エル・トポ』
『エル・トポ』とは
「カルト映画の金字塔」、「伝説のミッドナイトムービー」、「各国のアーティストが絶賛しつつも一般には受け入れられなかった奇妙なヒット作」など、映画『エル・トポ』を形容する言葉は数多くある。
また、ジョン・レノンがこの映画を4度も観に行き大変関心を寄せたために興行権を買い取ったことはあまりにも有名な話だ。
ここではそんな映画『エル・トポ』について解説・考察をしていきたいと思う。
・作品情報
監督
アレハンドロ・ホドロフスキー
キャスト
・エル・トポ ー アレハンドロ・ホドロフスキー
:主人公。ガンマン。
・息子 ー ブロンティス・ホドロフスキー(青年期)
:エル・トポの息子。
・マラ ー マーラ・ロレンジオ
:元頭目の女。ヒロイン。
その他の登場人物
・盗賊の頭目と一味
・女ガンマン
・四人の達人
・フリークスの女
・町の人々
『エル・トポ』あらすじ
・予告動画であらすじ確認
映画の予告ムービーでかんたんに見てみよう。
・4ステップであらすじ確認
文字でも読みたい人向けのあらすじ。ここでは4ステップでかんたんに。
[st-step step_no="1"]主人公でガンマンのエル・トポは息子とともに砂漠を旅している最中、盗賊に虐殺された村の人々を目にする。[/st-step] [st-step step_no="2"]エル・トポは盗賊を見つけ、頭目と一味を殺す。頭目の慰み者だった女が強いエル・トポに惹かれついてくる。息子は置き去りに。[/st-step] [st-step step_no="3"]女のために最強の男の称号を得るべく、砂漠にいる四人の達人を倒す。しかし、己のしてきたことの無意味さを悟り自殺しようとしていたところ、女ガンマンに打たれ、女にも裏切られる。瀕死の彼をフリークスが連れて行く。[/st-step] [st-step step_no="4"]目覚めたエル・トポは洞窟に住んでいるフリークスたちのためにトンネルを掘る。資金集めのために街へ繰り出すが、そこには成長した息子が居て父を殺そうとする、、、[/st-step]
『エル・トポ』感想
『エル・トポ』は所々で思わず声を出して笑ってしまう作品だ。
脈絡もなしにはじまる女同士の決闘、マザコンの達人、笑いながらヨガ行者を撃つヒロイン。
どれもが想像範の囲を軽々と超えてきて「なんだこれ」となる。
だけど、それはとても心地の良い「なんだこれ」で、詳しく言えば感嘆と呆然が入り交じるような感情だ。
だから、同時にそれは監督の想像力に敬服する瞬間でもある。
はじめて『エル・トポ』を観る人は、たくさんの「なんだこれ」に出会うと思う。
その「なんだこれ」を存分に楽しみたい映画だ。
・『エル・トポ』と聖書
とはいえ、奇想天外な場面ばかりなのかといえばそんなことはない。
『エル・トポ』にはしっかりとした物語の構成がある。そしてその筋は非常に明快だ。
具体的には、『エル・トポ』はプロローグを含めると以下の5部構成で話が進められる。
- プロローグ
- 創世記
- 預言者たち
- 詩篇
- 啓示
これらのタイトルからも分かるように、『エル・トポ』の構成は聖書を基板としているようだ。
特に、盗賊の頭に向かって”俺は神だ”と言う「創世記」。
手足と脇腹を聖痕のように撃ち抜かれる場面が印象的な「預言者たち」。
甦り善行を成す「詩篇」などは、物語の中でも聖書の筋に沿った内容だといえる。
そして、最後には主人公のエル・トポが死に、その息子たちが馬に乗ってまた旅立っていく(それはさながら物語のはじまりを思い起こさせる)というきれいな終わり方をしている。
だから、『エル・トポ』はよく言われているような難解な作品では決してないだろう。
むしろ、構成だけをみれば明快すぎるほど明快な物語と言える。
ただ、ところどころに芸術の爆弾が仕掛けられているというだけのことだ。
・『エル・トポ』と格言
この映画は、作品の冒頭に示される格言の通りに進行する。
冒頭にも引用した、
「もぐらは穴を掘って太陽を探している。時に地上へたどり着くが、太陽を見たとたん目は光を失う」
というものだ。
主人公はずっと太陽(希望の象徴)を探し続けるけど、見つけたと思うたびに突き放される。
そらはマラとの関係にも表れているし、フリークスたちの末路にも表れている。
特に後者のフリークスたちは、洞窟の中から太陽の下に出るという行動それ自体が格言と合致するから、監督が伝えたいことはこの格言に集約されているといってもよいだろう。
ちなみに主人公の名前でもある「エル・トポ」はもぐらという意味。
光を探し求める主人公の物語だと考えると、途端に作品が分かりやすくなるかもしれない。
・『エル・トポ』とアート
突然だけど、あなたはダリの絵をみたことがあるだろうか。
サルバドール・ダリ(1904-1989)はシュルレアリスムを代表するスペインの画家。
『記憶の固執』などが有名で、日本でも時々展覧会が開かれる(僕の大好きな画家の一人でもある)。
彼の作品をみると、やはり「なんだこれ」が襲ってくる。そして、それがたまらなく面白い。
彼の作品の前に立ち、作家の想像力にわくわくしている自分を認める。僕は「なんだこれ」と思いながらも、わくわくしている。
『エル・トポ』を観たときにもほとんど同じような感情を抱いた。だから、僕にとってこの映画はアートだと言える。
『エル・トポ』で僕が印象的だったのは、山羊が磔にされている場面や大量のウサギが死んでいく場面。
それから、フリークスたちが山から下りてくるカットも忘れられないし、墓に群がる無数の蜂のシーンも強烈だ。
これらの場面はまさに芸術的であり、内容を追わずともシーンだけで十分に観る価値は映画になっている。
『エル・トポ』は面白いか?
これまで、ハラハラ・ドキドキ・ワクワクする映画は、ハリウッドを代表してたくさん上映されてきた。
だけど、『エル・トポ』にはまた違ったわくわくがある。
一度観たけどあまり理解できなかった、という人もいるだろうと思う。
だけど安心してほしい。あのジョン・レノンでさえ、一度目に観たときには「よく分からない映画だ」と言ったらしいから。
シーンに面白さを感じても良いし、自分なりのストーリーの解釈を楽しんでも良い。
『エル・トポ』は決して難解で奇怪な作品などではなく、良く出来た小説のように味わい深い作品だ。